井上靖の『星と祭』は琵琶湖で娘を亡くした男性が、湖北の十一面観音を巡り、次第に心の平安を得るという物語です。昭和46年5月から1年間、朝日新聞紙上で掲載され、その後朝日新聞社と角川文庫から出版されたことで、湖北の十一面観音が全国的に知られるようになりました。
本書は人間の生と死、そして永劫なるものを美しい筆致で描写した小説ですが、それとともに、湖北地方の信仰や暮らし、民俗や風景が見事に表現されています。作品発表後、50年近く経ってはいるものの、観音さまが人びとの暮らしの中に入り込み、素朴で切実な信仰の対象となっていることや、大きな寺社に守られているのではなく、集落の人びとによって守られていることなど、小説の中で描かれている湖北地方の姿は今とほとんど変わってはいません。それは『星と祭』が小説という形態をとりながらも、この地方特有の民俗や文化の真髄をついているからだともいえるでしょう。
しかしながら、残念なことに現在は絶版状態となり、手に入れにくい状態になっています。もう一度、この本を湖北へ訪れる人に届けたい。そして、湖北のことを、観音さまのことを多くの人びとに知っていただきたい。私たちのその素朴な願いは次第に大きくなり、やがて『星と祭』を復刊したい、湖北を舞台としたこの小説を、自分たちの手で、自分たちの町から復刊したい、という思いへと変わりました。
こうして生まれたのが「『星と祭』復刊プロジェクト実行委員会」です。正直、大きな団体ではありません、小さな集まりです。しかし、湖北に暮らし、湖北のことを愛しているからこそ、お届けできる復刊のかたちがあるのではないか、と考えています。私たちが目指しているのは、湖北のことがもっと愛おしくなる『星と祭』の復刊です。手元に置き、何度も読み返したくなる『星と祭』の復刊です。来秋、新たな装いの『星と祭』をみなさまのもとにお届けするため、日々努力をいたしておりますので、ご協力、ご支援のほど、どうぞよろしくお願いいたします。